一曲目で、“無駄は処分だ!” と歌ってたら、次の曲では “捨てられる女の曲” を歌ってるって、いったいどんなアルバムだよ!
と、そんなことを思う二曲目。ホントに誰なんだろ、この秀逸な曲順を考えたの。いや、そもそも、アイドルが一方的に振られる楽曲を歌うこと自体が珍しい…と思ったけど、「全然起き上がれないSUNDAY」があったんだな、そういえば。
とはいえ、同じ題材でも、これでもかってくらいに曲調は真逆。
「全然起き上がれないSUNDAY」はとにかく陰鬱。ダークな世界観というのが言い得て妙だけど、アンジュルムが持っている「強いなかに時折見せる “弱さ” 」という核となるギャップの、その “弱さ” だけを曝け出した楽曲と言える。しかも、それを長年グループを引っ張ってきたリーダーの和田さんが抜けた後に出すのだから、戦略として面白い。
一方「マサユメ」は、「儚さ、切なさ、ひいては “か弱さ” のなかにある “芯の強さ” 」を核となるギャップとして持っている、つばきファクトリーの “強さ” の部分をこれでもかってくらいに魅せる楽曲となっている。
そもそも、“つばきファクトリーらしさ” とは何か、と言われたときに “儚さ、切なさ” というのが挙がるけれど、これだけでは説明が足りない気がする。他の事務所のアイドルグループはいざ知らず、ハロープロジェクトのアイドルの基本は “ギャップ” にある気がする。モーニング娘。の「バラエティ豊かなメンバーが、16ビートを常に刻みながら、統率されたパフォーマンス、ひいては一糸乱れぬフォーメーションダンスを魅せること」だったり、アンジュルムの「強さのなかに現れる “弱さ” 」だったり、Juice=Juice の「寂しがりやの “孤高” の集まり」だったり、BEYOOOOONS の「スキルの高いメンバーが全力でコミカルにパフォーマンスする」ことだったり。グループだけでなく、つんく♂さんの時代だと個人単位でも、この “ギャップ” をプロデュースしていたと思うのだけれど、それが今も根底にはあると思う。
ただ、いずれも基本にあるのは、「出来る子が見せる、ちょっと弱い部分」という点で、これがハロープロジェクトの “王道” もしくは、“ハロプロらしさ” の一つな気がする。
(そう思うと、投票で選ばれた人気のある子がセンターを務めてる AKB48 や、グループの雰囲気に合う子をセンターにしてる坂系は、ギャップの薄い “マンマ” のアイドルグループという印象を受ける。)
さて、この特徴に挑戦したのが、こぶしファクトリーとつばきファクトリーだったのではないかと思う。
こぶしファクトリーはあえてギャップを作らず、「強いものは強いまま、押し通す」というのがベースにある気がする。いや、実のところ、最近手を出したばかりなので結構当てずっぽうなのだけれど、イメージは大体こんな感じで、5人になって以降のこぶしファクトリーが、 “ハロプロのアイドルとして” 個人的に妙にしっくり来るのは、ハロプロらしい、“出来る子が見せる、弱い部分” が個人的に垣間見えるからかなぁ、なんて思ったりする。まあ、とはいえ、その強いまま押し通して、太く短く濃い青春を駆け抜けたのが、こぶしファクトリーという印象だ。
その一方で、つばきファクトリーは反対に「か弱いけれど、強い」という、本来のハロプロの持っているギャップとは反対の道へ行くこととなった。とはいえ、これが初めから意識されていたかは分からないのだけれど、個人的にはしっくりくる。
とはいえこの、「か弱いけれど、強い」というのは、書くほど楽ではない。というか、塩梅が難しい。まず、“か弱い” の部分なのだけれど、見せ方を間違えるとただの “可愛い” になってしまい、それだとカントリー・ガールズと被ってしまう。とはいえ、アイドルとして、病弱キャラを装うのも違うし、控えめ過ぎてもズレてしまう。
さらにその上で、“強い” 印象を与えるというのが至難の業で、少しでも気を緩めようものなら、一気にこの “強さ” に飲まれてしまう。しかし、この “強さ” を感じさせないと “ハロプロらしさ” も同時になくなる、このジレンマ。
このようなコンセプトのなかで、塩梅の難しい “強さ” の部分を一手につばきファクトリーで担うことになったのが、岸本ゆめのさんなのだと思う。つまるところ、ハロプロらしくない “か弱い” キャラだけれど、アイドルとして見所のある5人と、ハロプロらしいパフォーマンス1人という構図で、グループのコンセプトを模索しつつ確立させようとしたのではないか。
ただ、リーダーの山岸理子さん、サブリーダーでセンター格の小片リサさん、エースの浅倉樹々さんという、立場とともにキャラを確立させたメンバーと、新沼希空さんと谷本安美さんっていう、キャラとビジュアルの個性が強いメンバーを用意したのだけれど、彼女たちを持ってしても、岸本さんの “強さ” を抑えるのが難しかった感じがある。まあ、少し歌っただけでその場を支配してしまえるくらいのパフォーマンス力があったので致し方ない。
というのもあってか、岸本さん自身も、自分をつばきファクトリーのほうに寄せていくパフォーマンスをしていったのだけれど、それでも足りず、メンバーを追加したのだと思う。(ま、というよりも、コンセプトが特殊なので、インディーズ期間で活動を見ながら、どこを強化したら良いのか、どうやったらよりよく魅力的になるのかを考えていた、という方が正解なのだとは思う。)そしてその結果、歌唱力をはじめとするパフォーマンスも上がったのは確かだけれど、どちらかと言うと、よりコンセプトが明確になって、かつ方向性がハッキリした、という方が正確なところだと思う。
そして、ファーストアルバムでその方向性を模索しつつ、パターンの一つとして確立したのが「小片・岸本」体制なのではないかと言う目論見。「ふわり、恋時計」と「意識高い乙女のジレンマ」の背中合わせ感、好きなんだよなぁ。
とはいえ、その「小片・岸本」体制も捨てなければいけなくなり、さてどうするのかという問題に直面することになる。
そこで考えたのが、“つばきファクトリー” らしさを残しつつ、どこまで可能性を広げることができるかの模索なのではないかということ。(まんま、『2nd STEP』である。)そもそも、それまでのシングル群で “つばきファクトリーらしい” 楽曲は出し切っているので、実験的な楽曲を十分に入れることが出来るということも大きい。そして、そこで出てきたのが「如何に、“岸本ゆめのというキャラクターを崩さず” に、“つばきファクトリーらしい” の楽曲を製作できるのか」だったのではないか。
そして、そこで拵えたのが、「捨てられた女の逆襲」という設定。
その中で、ギャップの前提部分である “か弱さ” は、あくまでも “夢” の形でしか出てこず、楽曲のタイムラインでは “強さ” しか現れないのがこの楽曲のミソ。これで、岸本さんに存分に暴れまわってもらえる。作詞の児玉雨子さん、おそるべし。
彼女の見所で言うと、やはり二番終わりからのCメロ入りの歌割り。そして、小野瑞歩さんに一回パートを渡した後に、次は浅倉さんと二人での “ダダダパート” に入るのだけれど、ここの一連の八面六臂の活躍が、岸本さんの一つの集大成と言っても過言ではないだろう。
それにしてもこの楽曲のパフォーマンスで、つばきファクトリーの面々が全員ノリノリなのが、ホントに面白い。岸本さんの次に目立つ小野さんも、声量ぶっ放して暴れ回ってるし、やはりエースなロック浅倉さんの存在感も気になる。この人、アイドル然としてるのに、好きな音楽はロックって言う、“女版キムタク” を地で行くから面白いのだけれど、最近はさらに磨きが掛かってる。
歌割の妙も凝っていて、小野田さんの一番の締めパートから二番のAメロの流れ、ラストの谷本さんから秋山さんへのパート渡し、そしてリーダーのオラオラの歌い方と、決めるところは決める新沼希空さん。隙がない。
あと、さすがの作曲、中島卓偉さんですよ。つばきファクトリーと相性がいいと言うか、岸本さんとの相性がいいと言うのか。いや、はじめに書いたのだけれど、そもそも “か弱さの中にある、芯の強さ” を “ギャップ” として持っているわけなのだけれど、基本的にこの属性を持っているグループはないんですよ。だからこそ、「つばきファクトリーの楽曲が好き」という層が生まれると思うのだけれど、そのグループと1番親和性が高いのがロック畑の人と言うのが、実に真を突いてる現象だと思う。
さて、アルバム曲はティザームービーが製作されているわけなのだけれど、そこでフューチャーされているのも、岸本ゆめのさん。ただ、楽曲のテンションにはあっているのだけれど、世界観を示すためにはかなり制限を加えなければいけないことも確かで、さてそこでどうするかと言うことになるのだけれど、そこで監督さんが提示したのが、「スローにしてかつ逆再生」と言うのが面白いところ。岸本さんの良さを出しつつ、それでいて楽曲の世界観も崩さない絶妙なところを突いていて好き。(そして、さらにいえば「全然起き上がれないSUNDAY」を歌ってもらいたいなぁって思ったのも、この映像を観てから。ソロフェスで歌ったら、MVP狙えそうなんだよなぁ)
というわけで、楽曲の話だけのつもりが、飛ぶに飛んで、ハロプロのギャップ論から、姉妹グループのこぶしファクトリー、そして、岸本ゆめの論にまで及んでしまった今回。いや、岸本ゆめの論にフォーカスを絞ろうとしたら、とんでもない遠回りをしてしまったというのが実際なのだけれど…。それにしても、ホントに最新のキラーチューンとしても優秀過ぎて困る。パフォーマンスも最初から安定してるし、なんだかんだで、ライブが最強のアイドルなんだよなぁ、つばきファクトリー。