さしもしらじな

アイドル系のデトックス諸々

「ハロプロだから」って、正統派から逃げない覚悟。「弱さじゃないよ、恋は」

 

 

 

出端を挫くようでなんですが、正統派アイドルってなんですかね?

 

 

もう、これは半分生年の問題だと思うんです。コレを書いてる人間は、94年生まれ。生まれた時には昭和のソロアイドルなんてほとんどおらず、物心ついて初めに知るのは SMAP か、モーニング娘。、あるいは SPEED くらい?ソロだとパッと出てきたのは安室奈美恵さんと浜崎あゆみさん。ただ、安室さんをアイドルというにはアーティスト色が強い気もするし、浜崎さんもなんとも微妙な立ち位置。DA PUMP とか EXILE も、ダンスボーカルグループって感じだしなぁ…。

そのあと、嵐とAKB48 が2010年代とか、その少し前くらいに出てきて、「アイドル復活」「アイドル戦国時代」と騒がれてた感じがするのだけれど、要はこの 95年くらいから2010年くらいまでって、SMAP を含めたジャニーズかハロプロか、みたいな小中学生なんですよ。

でも、この二者って “正統派” と言われれば結構微妙。アイドルはアイドルなんだけど、うーん。

(ちなみに、この頃のジャニーズってのは、SMAPTOKIO、V6、KinKi Kids、嵐、KAT-TUN、NEWS、ぎりぎりで関ジャニ∞までのイメージ。で、こんなかで目立ってたのは、SMAPKAT-TUN、NEWSで、どれも正統派感ないんですよ、ものの見事に。アウトロー色が妙に強い。いや、興味がそれ以外になかっただけかもしれませんが。)

というので、長々と正統派とはなんぞや?ということを論じては見たものの、「結局分からん!」というのが、正直なところ。ただ強いて言えば、「いま売れている路線」というのが、アイドルで言うところの “正統派” のような気がします。つまるところ、48系 とか、坂系とか、個人的にはアニソンアイドルのなかにも正統派を感じます。そして、乱暴ではあるけれど、基本的にハロプロはこの系統ではない、と言う感じ。…いや、もしくは逆か。48系 や 坂系 が、ハロプロカウンターカルチャーとして出てきた、と言う方が良いのかもしれない。

(って、書いたのだけれど、ここでも少し待ったがかかって。もしかすると、僕らの一つ上の世代が “正統派” と感じるものを作り上げたのかなぁというのも少し頭によぎる。今の 40代くらいの人が青春時代に見てたものを、現代で売れるように作り直した的なイメージ。そう言う意味で言うと、今のハロプロの再評価…って言い方は少し微妙だけど、要は今の20代後半から30代が聴いて育ってきた青春のアイドルソングを今の大人たちが作っているのかもしれない。)

で、まあ、ものの見事に逆転現象が起き、ハロプロは世間的に見れば冬の時代へ差し掛かるわけで(いわゆる、プラチナ期)、日本国民のポップミュージックの主流も、売り方の問題はさておいて、48系 や 坂系 が隆盛を極めたわけだ。

ただ、そんななかバラエティーでサバイヴしてきた道重さんをリーダーとして主流に殴り込んだのがカラフル期…というイメージ。2014年末につんく♂さんが闘病生活に入るまでに盛り返し、道重さんの卒業を一つの区切りとして、総合プロデュースからも手を引くことになる。

というわけで、ここからはつんく♂さんから事務所にハロプロ全体のプロデュースが引き継がれたわけなのだが、問題はつんく♂さんが作り上げたものをどこまで残して、どこまで壊すかだったように思う。

単に言って、つんく♂さんのような才能溢れたプロデューサーは世にそうそういない。ましてやいたとして、「はい、引き受けます」という人となるともうゼロに等しい。そうなると、色々な人に力を頼みながら、存続させつつ、新しい魅力を引き出さないといけない。

一番初めに動いたのは、スマイレージアンジュルムに改名するとともに、反モー娘。主義…もっというと思想上のつんく♂イズムから積極的に離れていく方向性にリーダーの和田さんを中心に行ってる気がする。(ここら辺は別に何かのインタビューを読んでるわけではないので軽く流して。)

反対に、Juice=Juice はつんく♂さんのもとで培ったスキルを磨く方向に行ったんだと思う。偶然かどうかわからないけれど、ボイストレーナーの菅井さんがついたのもその一環と考えるとちょっと面白い。ここら辺は、宮本さんの思想が強いのかしら。(あくまで印象論です、悪しからず。)

そことは別に、道重さんと並ぶバラエティーエースで、つんく♂さんのもとで育ちながら、アイドルという職業に対して別の価値観を持った嗣永さんをリーダーとするカントリー・ガールズが活動を始める。(もともとベースにカントリー娘。があるものの、その上に乗ってる思想はリブートされたものと考えると、結構理に適ったグループ運営な感じがする。)

ここに、「アイドルが憧れるアイドル」としての大御所にして屋台骨、°C-ute が鎮座することで、モーニング娘。、ひいてはハロプロの大きすぎる転換期を乗り越えようとした意気込みが見える。

 

が、しかしである。

 

このままでは、現状維持こそすれ、新たな進化には結びつかない。いくら既存のグループが揃っているからと言っても所詮はつんく♂さんの置き土産。事務所主導で拵えたものではなく、変な話、どこかで解散すれば商売は続かなくなるのだ。

そこで二つのグループを始動させることにした。それが、こぶしファクトリーつばきファクトリーに当たる。

こぶしファクトリーは、それまでのハロプロの継承、言ってみりゃ「セルフパロディ要素が強い」と思う。ただ、セルフパロディではあるが、つんく♂さんの力を借りないというのが一番大きなポイント。つまり、「つんく♂印のないままに、ハロプロは自分たちらしい楽曲を作り続けることが出来るのか?」そういうコンセプトを持っているのだと思う。

一方で、つばきファクトリー。これは、真逆のコンセプトで、「ハロプロカウンターカルチャーとして現れた、48系や、坂系を、ハロプロの血を通して再構築する。」簡単に言えば、「つんく♂さんが今までやらなかった音楽性を突き詰めてみる」ではないかと。

とはいえ、ただでさえやって来なかった方向性を、さらにグループの色をつけて出来るのか、というのはなかなか至難の業。ここは音楽事務所の意地というか、「単なるパロディにしないためにはどうするか」を割と真剣に試行錯誤したのだと思う。

(「独り占め」「Just Try!」「デートの日は二度シャワーをしたい」などのつんく♂曲があるのは、“ハロプロらしさ” とのせめぎ合いなのではないか、とも思ったり。どこまで際際まで攻めれるかの見極め、的な。)

その結果、インディーズデビューで始まり、ある程度の方向性が見えてからメンバーを増員し、そしてデビューを果たすのだけれど、それ以降になっても形になるのは意外と長かったと思う。

そんな試行錯誤のなか、画期となったのは「低温火傷」じゃないかと。インディーズ時代から実は得意としていた早めのテンポのデジタルポップチューン、「ハナモヨウ」で魅せるようなグループが一体となったパフォーマンス、「初恋サンライズ」で見せた台詞パート、それでいて「就活センセーション」のラストで光るフェイク…と、正統派で聞き馴染みのあるアイドルソングでありながら、随所で感じられる “つばきファクトリー” らしさ、ひいては “ハロプロらしさ” 、その塩梅が “切ない乙女心” という代名詞とともに結実したといえる。そしてこの路線が、つばきファクトリーの大きな特徴として挙げられることになる。

 

…と、ここまで長々と自身のアイドル遍歴と、つばきファクトリーの楽曲についての右往左往を書いだのだけれど、実はまだ前置きの半分。こんなに長くなるとは思ってないのですが…。

 

さて、気を取り直して、もう半分。

忘れられがちですが、実は前回のトリプルA面シングル「涙のヒロイン降板劇 / ガラクタDIAMOND / 約束・連絡・記念日」のレコーディング時期は、オリジナルメンバーに関しては、新メンバーが入る前だったりします。

…いや、実のところ何処で読んだのか、もしくは聴いたのか忘れたので「確かそうだった」くらいの感覚なのですが、どちらにしろ、全員が全員、歌声をキチンと把握してからレコーディングに臨んだ訳ではなかったりします。そしてそれは、制作側もそうだったのではないかと思う。例えば、「ガラクタDIAMOND」の「大嫌いよ」のフレーズ。後々に語られたことですが、もともと音程的に安定して出るのは小野さんだけで、小野田さんはギリギリ出たので、食らいつくように歌った、なんて話が残っています。つまり、メンバーの割り振りを考えて作られていたわけではない。

そんな、急ピッチで作られ選ばれた楽曲なので、新メンバーが加入された話題性としては高いものの、全体のクオリティとしては全員野球とはほど遠いものとなっていると思います。あくまで試金石。

ただ、今回は違う。前のシングルを踏まえて、誰を何処に配置して全体の完成度を上げるかが細かく考えられていて、そしてメンバー自身もある程度それを自覚しながら、歌っている。(実際の逸話として、メンバーは口々に「弱さじゃないよ、恋は」の「アーバンブルーのTシャツ」パートは初めっから河西さんが取るような気がしてた、ということも話していたりします。)その「美は細部に宿る」ではないけれど、細かさが反映されているのが「弱さじゃないよ、恋は」ではないかと。

 

(この裏側には、「ソロパート問題」も関わっているように思います。ただ、本来は「歌の上手い子が見合った量のソロパートを取る」から「全員が歌えること前提で、それぞれのキャラや見せ場になるようなソロパートを配置する」という大きな転換がサラッと行われている気がします。無論、後者の方が高度。)

 

まとめると、“つばきファクトリーらしい” ってのは、いま流行っている音楽性をキチンと取り込みつつも、随所にハロプロを感じさせる技術の高さ、もしくはメンバーの個性を活かすプロデュースが行われていること、そして最終的な世界観として立ち現れるのが “切ない乙女心” なのではないか、と思うのです。

 

…ここまで、長い!

でも、これくらい書かないと、頭のなかが重たいままなのよ。

というわけで、ここからがその最新形としての「弱さじゃないよ、恋は」の聴きどころ。

 

まず、一番の出だしから。ここから既に、メンバーの実力をフルに活かそうという気概が見える。

河西さんと秋山さんに任せるのは、「ガラクタDIAMOND」「約束・連絡・記念日」を前提とした作り。おそらくこの二人が、これからの “つばきファクトリー” の正統派アイドルソングを引っ張っていくのだろうと思います。表ヒロイン、とでも言いましょうか。

(とは言っても、目立たないだけで「ハナモヨウ」のラストの台詞パートや「低温火傷」のラストソロ、「今夜だけ浮かれたかった」のラストソロなど、意外と秋山さんって重要なところ任されてるんですけどね。てか、ザッと挙げてみて思ったのだけれど、もう少し目立っても良くないか?秋山さん。)

そんななか、Bメロの印象的な低音パートは小野小野田コンビ。これは「ガラクタDIAMOND」が反映された結果。というか、なんで今までこういう仕掛けがなかったのか分からないくらい印象的です。

ちなみにハモリパートのお気に入りは小野田谷本ペア。「ひなフェス」の事前特番で出た会話の中で、「小野田谷本のユニゾンパートはほとんどない」ってネタになっていたのだけれど、反対にハモリパートになるとこんなに印象的なのか!という驚きはありましたよね。

…ていうか、普通にハモリパートがついてるの、よくよく考えると珍しい気がしてる。サビとかであるならともかく、メロにあるのが新鮮。

(あと、話はズレるのだけれど、つばきファクトリーってリズムの取り方がメンバー間で統一されてるグループだなって思ってて。「意識高い乙女のジレンマ」のAメロって2人ずつリレーで繋いでいくのですが、あのまるでソロで繋いでるかのような違和感のなさって、リズム感が同じじゃないと出来ないんですよね。そういうのも、小技として持ってるのが、つばきファクトリーの面白さ。)

そんな小野さんと小野田さん。地味に一番サビでもソロがあるのが面白いところ。特に、小野田さんの「離さないで」。ここはセリフパートと捉えてもいいんじゃないかって、個人的には思います。

(そういえば、OMAKE CHANNEL の企画で、山岸リーダーによるセリフパートメドレーがあったとき、「抱きしめられてみたい」の「ねぇ、あの子誰なの?」がセリフパート扱いになってたこともあったし、反対に「イマナンジ?」の岸本さんの「駅まで送るよ」はもともとセリフパートじゃなかったりするし)

そして4人のユニゾンパートからの、一瞬入るソロパートがあるのですが、ここを担当するのが山岸さんと八木さん。個人的には、裏ヒロインという感じ。2番のAメロもこの二人ですし。

これもあんま気づかれてないんですけど、山岸さんってサラッとソロパートに入ってくるんですよ。え、そこリーダーのパートだったっけ?みたいな。不意打ちの歌割。これが凄く楽曲のアクセントになってて良いんですよ。心を奪われる。

八木さんも同じで、一言でガッツリ心を掴んでくるタイプ。発声のよさ、なのかなぁ。こういう、飛び道具が上手く働いてる。

(「約束・連絡・記念日」の「だから」とか、「アドレナリン・ダメ」の「オキシトシン」「アドレナリン」の発音とか。)

今回の楽曲は、そんな6人でベースを作りながら、それでいて他の見どころを作っているのが残りの6人。飽きさせないヒミツを握っているというか。

二番サビで活躍するのが、新沼さん、谷本さん。ソロで出てくるのはここだけなのだけれど、反対にそれが目立つ要素になってるというのが、面白いところ。声が個性的なので、こういうワンポイントでも気づいたら頭に残ってるんですよ、二人とも。

その一方で、ラスサビでは、浅倉さんと福田さんの両エース。「アドレナリン・ダメ」では一番に見せ場があった二人ですが、今回は締めに配置して、世界観をグッと深めています。

そして、表ヒロインの秋山さんと河西さんと共に落ちサビに歌割があるのが岸本さん、豫風さんの二人。二人が作り上げた世界観を壊さないように繋ぎつつ、ラストへの疾走感の踏切をします。ここも、前回の「ガラクタDIAMOND」「約束・連絡・記念日」を踏まえた作り。ちゃんと、応用が効いてる。

そして、そのまま岸本さんのフェイクへなだれこむ。これがまあ、気持ち良い。「低温火傷」の「君には〜」を思い起こさせる、「I make up my mind」のところも素晴らしい。このフェイクなんですけど、力任せじゃない感じが良いんですよ。岸本さんって、基本がならないんですよ。なんか、その丁寧さが良いんですよね。フェイクだけど、丁寧に決める。欲しいところにスッと入ってくる。画龍点睛。

(あと、毎回不思議なのは裏声でもなければ、声のボリュームを抑えてる訳ではないのに、他のメンバーの歌唱を邪魔していないこと。もう少し声同士が喧嘩しててもおかしくないのに、絶妙に鳴ってるんですよね…。まさに、楽器のような声というか、心地いい。)

…こう見ていくと、制作側でこのコンビで組み立てようみたいなのもあるのかなぁ。「山岸・八木」「新沼・谷本」「岸本・豫風」「浅倉・福田」「小野・小野田」「秋山・河西」と言った感じ…。こう見ると、収まりの良いコンビだなぁ。ここに、年上組「山岸・新沼・谷本」、屋台骨「岸本・浅倉」、中堅「小野・小野田・秋山」、リトルキャメリアン「河西・八木・福田・豫風」、の組み合わせが噛み合わさって、作り上げられている感じがする。

そんな、素敵な歌声に彩られた楽曲のラスサビが終わって、最後は透明感が過ぎる秋山さんのフェイク。あとあじスッキリ、初夏の爽やかさを残して終わります。

 

 

 

ハロプロで正統派をするってことは、メンバーの特徴を活かしつつ、スキルをフルに活用して楽曲を作り上げるということ。そしてその最新形が「弱さじゃないよ、恋は」。ただ、一朝一夕で作られたものじゃなくて、これまでの成果が積み重なって出来ている、つばきファクトリー会心作であり、もっというと、ハロプロの飽くなき探究心が行き着いた一つの答えであり、この曲を含めて一位を取れたということは、ほぼ全方位敵なし状態なのでは?と思ってる所存。

 

この先も、拘りを感じる楽曲をお願いします!