さしもしらじな

アイドル系のデトックス諸々

岸本ゆめの『BE』

 

 

岸本ゆめのインターミッションシリーズ、第二弾である。

 

 

 

正確には今回の『BE』が先立つのだけれど、色々とあって先延ばしにしていたのだ。そして都合よくハロプロアドベントカレンダーのタイミングで復活させようという、そういう事情である。

 

 

今回と直接関係あるかは微妙なのだけれど、同じ “卒業曲” というテーマなので。

 

 

というわけで時間軸というと【岸本ゆめのの夢で会いましょう】よりも前に戻ります…

 

 

 

それは暖かい秋の日のこと。その日、僕はフォロワーさんと武道館公演が始まるまで神保町周辺を散歩していたのだけれど、その時の会話でハイデガーの話が出てきたのだ。

ハイデガーといえば『存在と時間』である…そしてその数時間後、岸本ゆめのの『BE』を聞いたときにそのことを思い出した…

 

訳などあるはずもない。

 

そもそもハイデガーの名前が出たときに『存在と時間』のことを想起してないし、更に言うと現場でその歌を聴いた時にその楽曲のタイトルが『BE』であるということすら知らなかったのである。

ここら辺が現場勢と映画館等の放送勢との違いなのだけれど、現地の人はあの曲名が『BE』であることを認識する術などなかったのである…それこそ古参のファン以外は。

と言うか実際問題、あの場にいた人で歌が始まった瞬間に『BE』だと分かった人がどのくらい居るのだろう…僕と同じように、スクリーンに映る歌詞が手文字だったことも相まって、自作曲じゃないのか?と思った人も少なくなかったはずである。いや、わからんけど。

 

因みにこの曲、ハロプロの中でも歌われるのはレアである。ハロプロセトリ検索システムToMoKo(ハロプロセットリスト検索システム「ToMoKo」(β))によれば、披露されたのが2014年7月ぶりである。はっきり言って定番でもなんでもない。なんなら岸本ゆめの本人のバースデーイベントでも歌われたことないのだ。てか、つばきファクトリーすら存在してないじゃないか、おい。

 

なぜそんな突拍子もない曲を選ぶのかと言われれば、それはもう「岸本ゆめのだから」としか答えられない。

ただ、そんな曲を選んでも不自然にならないような、「誰も予想だにしない曲を披露する」ことへの伏線自体はこの【可惜夜〜暁】中に張り巡らされている。

 

まず、「妄想だけならフリーダム」。最新曲ではあるのだけれど、この曲に岸本ゆめのが参加するのはこの【可惜夜〜暁】が最初で最後だったのである。

 

 

おそらく、このオープニングの一発の為だけに【可惜夜】本ツアーでは外れていたのである…ということはこの “予想だにしない展開” は本ツアーが始まった10月から構想されていたことになる。

…にしても、本バージョンだとリトキャメのユニゾンパートになってるところを1人の声量で聴かせてるの、冷静になると凄くない?

 

次に【可惜夜〜暁】メドレー〜山岸理子による°C-uteを中心にしたメドレーと岸本ゆめのによるBerryz工房を中心にしたメドレーの豪華二本立て〜である。もちろん、つばきファクトリーのライブでそれ以外の楽曲を披露するのはなかなかの博打ではある。ただそれを “研修生からの仲” と “つばきファクトリーBerryz工房の精神を受け継いだ正当なグループ” という二大文脈において成立させてしまうのである。

 

(…とはいえ、正直【灼熱】で河口湖まで行って中身開いたら「夏わかめ」と「忘れられない夏」が披露される、みたいな展開がザラなので慣れてるといえば慣れているのだけれど)

 

ただそんな半ば強引に成立させておいて、なおも選んだ楽曲の個性が光る、あえて悪くいえば「なんでこの曲選んだんだよ!」と突っ込みたくなるのがこのメドレーの肝である…が、ここにもキチンと文脈が質されているのが素晴らしいところ。

僕もあとあと知ったのだけれど、岸本ブロックの前半の2曲…「アジアン セレブレイション」と「サヨナラ 激しき恋」は岸本ゆめのの敬愛する先輩清水佐紀さんが目立っている曲らしいのだ。コレが重要なのは、ただ敬愛してるからだけでなく、そのキャプテンのメンバーカラーであるイエローを岸本ゆめのが引き継いでいるということにある…さらにいえば、そのことは復帰後から武道館までの非常に短い期間のうちのブログで言及されており、さながらこのパフォーマンスの為に用意されていたかの雰囲気すらある。

 

 

因みに、たまたま岸本ゆめののイエローについてのブログ記事もあるのでよければどうぞ。

 

 

(あと、清水佐紀さんがこの卒コンに来られていたことは夏焼雅さんのインスタのストーリーで確認することが出来ていた。これぞ師弟愛。)

 

そして「行け!行け!モンキーダンス!」はMCでも語られていたように帯同ツアーの思い出の曲でもある。

と、一見して破天荒に見えるメドレーも、ちゃんと意味があるのである。

(因みに前出の ハロプロセットリスト検索システム「ToMoKo」(β) によれば、「サヨナラ 激しき恋」も2019年のこぶしファクトリーのリリイベ以来の披露だったとのこと。)

 

ただ、もちろん文脈の意味があるだけではダメ。そこに岸本ゆめのの歌唱力があるから説得力が生まれる…もっというと “歌声で観客をねじ伏せる” のである。この圧倒的な歌の力とパフォーマンス力で観客をねじ伏せるところに岸本ゆめのの本質がある。

 

つまり、歌の力で人を黙らせる。

 

…にしても。にしてもよ?イケイケのディスコ調から熱いロックンロール、そして異国情緒漂うコミックソングと、このメドレーの幅広さには驚く。そしてその完成度よ…ほんと完璧なんだよなぁ…。

あと、研修生曲からルーツとなるベリキュー、そしてインディーズとメジャーのデビューシングルを披露して最後に「間違いじゃない 泣いたりしない」を披露する流れは、何もない2人が先輩たちの背中を追いながらデビューして、遂に自分たちのアイデンティティーを手に入れる過程にも見れて、ホントに良いんだよなぁ…。

 

 

そんな “予想だにしない展開” の極め付けが新曲「アタシリズム」である。コレに関しては最早バグ。だって岸本ゆめのの復帰に際して制作されたものと明言されているんだもの…ということは本来なかったハズの楽曲なのだ。

 

 

まさかの完全なるフィーチャー曲。一応、「君と僕の絆 Feat.KIKI」もあるのだけれど、これは【灼熱】で披露されたもののリメイク版。本当にゼロから作られたという意味ではつばきファクトリーではかなり珍しい立ち位置。正直、【可惜夜〜暁】で色んなサプライズがあったけど、一番はこれだと思う。(異論は認める)

 

因みに本人たちもかなり好きな曲なのか、音源化されてない…どころかハロステ!ですら公開されてないのにも関わらず、フェスで披露されたり、グループでも2回しか披露してないのに早速小野田紗栞がバースデーイベントで披露していたりと、既に定番曲化しつつある…。本当にどういう立ち位置になるんだこの曲…。

 

 

 

そんな様々なサプライズがあった上での「BE」である。

 

正直、自作曲だと見紛えても仕方なくない?

 

で、兎にも角にも歌の説得力ですよ、これは。

 

 

ホントにね…ひとり The Ballad でしたよ、これ。全員が固唾を飲んで聞き入ってる異常空間。あんなに聞き入ってること、他にないんじゃない?ペンライトを振るわけでもなく、ただ聞き入ってる。

で、この曲の解釈だけど、これは前に書いた文章から抜粋。

 

 

この「BE」。わかりやすい言葉なのに、歌詞を理解するのには結構難しいな、と思ったんですよ。なんというか「じゃ、歌ってる私は誰なんだ?」ってなるというか、良い曲だけどメッセージを読み解くにはかなり難しくない?っていう。

そこで、ポストで流れてきたのがつんく♂さんのセルフライノーツですよ。

 

 

ここからはこのライノーツを元にした独自の解釈なのですが…。

 

つんく♂さん自身が書いてるように岸本ゆめのが “あの子” を “まだこの世にいない人” “まだ生を受けてない人” に重ね合わせたのかは定かではないのだけれど、もし重ね合わせてた場合、それは “いつかつばきファクトリーに入ってくる子” なんじゃないかなって思うんです。

じゃ、そうなると “君” って誰なのよ?ってことになるのだけれど、これは今所属している “つばきファクトリーのメンバー” だと思うんです。

 

“君” = “つばきファクトリーのメンバー” 

“あの子” = “いつかつばきファクトリーに入ってくる子” 

 

という構図を考えた上で歌い手である、“私” = “岸本ゆめの” は、じゃあ一体何を考えて歌っているんだろう?と思うと、それは “君” と出会えてよかった、ってことだったと思うんです。それは歌詞にあるように、“君” がいつか “あの子” と出会って、“ぬくもり” や “全ての答え” がわかるように、“私” は “君” に出会って “ぬくもり” や “全ての答え” を知ったのではないかと。

で、なんでそこまで考えられるかというと、岸本ゆめのが復帰して以降、繰り返し繰り返し…例えば行くぜつばきファクトリーの自身最後の出演のコメンタリーだったり、【可惜夜】本ツアーの千秋楽だったり、卒業特番だったりでも、自分のこれからよりも、つばきファクトリーのこれからをつばきファクトリーのファンに託してきたからなんです。そんな彼女が最後に、未だ見てないどこかにいるであろう “いつかつばきファクトリーに入ってくれる子” に向かって歌っているのが凄く納得がいく…というか、こうとしか考えられない。

 

 

いや、もちろん読んでる人の中には「そこまで考えてないだろ」とか思う人もいるかもしれないけど、岸本ゆめのならありえるなぁと、ファンである僕は思う。

にしても、アイドルが歌うには難解な曲だとは思うが。

ただそこらへんも岸本ゆめのらしくて、Berryz工房の曲も含めていろんな楽曲を歌ったのだけれど、引いてはハロプロにも素敵な曲は沢山あるけど、その外の世界にも素敵な曲は沢山あるんですよ。それはもしかすると、自分が作る楽曲かもしれないわけで、そういう新しい世界へと向かう中で選んだのがこの曲だったのかなぁと。

つんく♂さんはこの解釈をどう思うのかな。てか、この曲を選んだ岸本ゆめのにどういう感想を抱くのだろうか。見てほしいなぁ…是非とも。

 

 

…と、まあこう書いた後、“君=むかしの自分” “あの子=君が思い浮かべている将来の自分” ていう線も考えてみたけど、やっぱりしっくりこない感じ。

 

“君” = “つばきファクトリーのメンバー” 

“あの子” = “いつかつばきファクトリーに入ってくる子” 

 

この構図が一番しっくりくると思うし、本人があれだけ落とし込んで歌っているのだから、この解釈じゃなくても、ちゃんと考えがあって歌ってると思う。目立てるから、珍しいから歌っているのだからではなく、ちゃんと考えて歌っているのだ。

そしてそれは「これからはハロプロの曲をほとんど歌わないかもしれない」という発言にも繋がってくる。これほど完璧な選曲が出来るのならば、おそらく他の卒業したメンバーとともに M-Line を盛り上げることもできると思う。しかし、やらないのだ。だってどんなに頑張ってもこのレベルには辿りつかないのだから。

 

いや、この解釈を抜いたとしても、この曲の歌い出しが “また一つ 夜が明けた” で始まるのだ。ライブタイトルが【可惜夜〜暁】で本編のラストで「初恋サンライズ」、からの “また一つ 夜が明けた” である。え、完璧じゃない?それに加えて、上の解釈を加えたら全てが必然すぎて凄いのよ…。

 

これが、卒業するということに対する真摯な向き合い方なのだと思う。やりたいことを全部、完璧にやり遂げる。実に岸本ゆめのらしい卒業だ。

 

 

さてそんな “完璧さ” はもう一つのインターミッションである行くぜ!つばきファクトリーの方で行われた岸本ゆめの夢で逢いましょうで真に完遂されたと言える。卒業セレモニーではリーダー山岸理子とは違い、メンバー個々への言葉はなく、あくまでも観客とスタッフにたいするものであった。これは結果的にライブの中弛みが緩和され、スマートなコンサートにすることを実現したように思える。

そして結果的に言いそびれてしまったメンバー個々へのメッセージは番組内でしっかりと伝えられた。面白いのはメッセージの後にそれぞれに当てた “歌詞” までプレゼントされているということ。なんとなくだけど、これって挨拶を行ってから「BE」を歌い始めた形式と似ていると思うんです。となると、彼女の頭の中では既に「BE」を歌う時の演出まで決まっていたのかなぁと、見た後に思ってました。

 

さて、こんな風に見ていくと、一見して突発的に現れた「BE」だけど、全部繋がっているというのが岸本ゆめのの真髄だと思うのです。いや、もしかするともっと深いのかもしれないし、反対にここまで考えてないかも知れないのだけれど。

ただ、この考察の余地というかね、これからもこう言う “アイデア” に驚かされるのかもしれないなぁとも思ってたりするんです。ソロになって不安に思ってるところもあるのだけれど、それでもやっぱり惹かれるのは岸本ゆめののこういう “生き様” なんだよなぁ、結局。