さしもしらじな

アイドル系のデトックス諸々

『SONGS FOR YOU』/ モーニング娘。じゃないと出来ないこと。

 

 

「Teenage Solution」を見た最初の感想は、野中さんのソロ少ないな、ということ。そしてその後、「ま、この楽曲、野中さんにはもう合わないな」と思ったのです。

楽曲の世界観として、「アイドルたがら、若いから、出来ないことがある」と言うのが前提にあるんです。それは、鞘師さん卒業後に特に色濃く出てきた楽曲性、テーマだと思うのだけれど、野中さんの実際の動きはそこにそぐわなくなってるんです。なんというか、「アイドルじゃなきゃ出来ないこと」もっというと「モーニング娘。のメンバーだから出来ること」ひいては「ハロープロジェクトじゃないと出来ないこと」を全力でやってると思うんです。

 

そして、その一つの到達点が『SONGS FOR YOU』という番組…、いや敢えていうと、“作品” に結実したと思うんです。

 

そもそもこの番組枠を勝ち取るきっかけとなった「ソロフェス」からそうなんですけど、野中さんがしたパフォーマンスは、一人では出来ないプロジェクトなんですよ。そもそも、スタッフとの連携をしっかり取って進めなきゃ、「勝手に編曲して歌います!」なんてわけには行かないですから。

そして、そのことの発展形として出てきたのが『SONGS FOR YOU』になってるんです。

 

そんなこの “作品” 、事前情報一切なしで始まったのですが、蓋を開けるとなんとびっくり、端から端まで「全部、私プロデュース!」と言わんばかりの作品。

 

それが一曲目から分かるのが凄い。

「独占欲」から「女と男のララバイゲーム」という、定番曲どころかシングルですらない楽曲から始める度肝を抜く演出。

からのユニット選抜。

ここには、野中さんがモーニング娘。の中から見てきたメンバー評が入ってるのも面白いところ。

年上メンバーで固めた「青春時代123!」、可愛い選抜の「 I & You & I & You & I」、大きく期をまたいでバチバチ感を演出した「印象派 ルノアールのように」、現代版美勇伝恋のヌケガラ」、コロナ禍で見ることができないと思われたファン絶賛の「ロボキッス」。

一晩のインスピレーションで考えたというのだけれど、そこには今のメンバーの評価も含めつつ、つんく♂さんへのリスペクトを込めた選曲がなされていた気がするのです。それは、“メンバーの特徴を生かした楽曲作り” へのリスペクトだと思うんです。そしてそれは「つんく♂さんが残した膨大な過去の楽曲の中から、私は現行メンバーでファンが納得する最適解を選ぶことが出来る。」という意思表示なのかなぁとも思ったり。

ただ、そういったなかにあっても、サラッと本当にやりたいことを入れてるのが野中美希さんなのではないか、と思ったり。個人的には、12月で卒業する佐藤さんと加賀さんと組んだ「壊れない愛がほしいの」は、実は本当にやりたかったことなんじゃないかと思うのです。なんというか、ここのメンバーだけ、ユニットのバランスが他と違う感じがするというか、感覚ですけど。

ちなみに、感覚で言うとおそらくつんく♂さんの言うところの “バランスが良い” ユニットの組み方だと思います。良くも悪くも “ファンが思い浮かべているイメージでまとめた、思った通り” の組み方。今回、野中さんが敢えてそれを狙ったかどうかはわからないのだけれど、個人的には “崩したバランスバージョン” も見てみたい次第。というより、今回バランスが良いユニットを組めたからこそ、“野中美希が考える、面白いバランスの崩し方” ができると思うんですよね。それを見たい。

(あと、選曲されていたのが、いわゆる “モー娘。曲” じゃなくて、派生ユニットの楽曲から選ばれていたのも、結構面白いところ。派生ユニット縛りで行こうと思ったのか、結果的にそうなったのかは分からないけれど、これが “驚き” の源泉になってたと思う…。ぶっちゃけ「青春時代123!」「恋のヌケガラ」の二曲はタイトルすら知らなかったですから。こんなカッコいい楽曲あんの!めっちゃ寝かせてるやん!って思ったわ。)

 

さて、そんなユニット曲を挟んでからの「Wonderful World」はつんく♂曲じゃなくなったからなのか、はたまた野中さん選曲じゃなかったからか、全体の流れからは浮いてた印象。なんというか、「思った通りの出来で面白くない」という、身も蓋もない感想だけれど、反対に言えば、全体に漂う “サプライズ感” を楽しむ番組でもあったのかなぁと考えたり。

 

そんな、ファンの思惑通りの展開の後に出てきた、とっておきのサプライズ中のサプライズはなんと、自作曲披露。しかも二曲。

コレが、まあ、ポップスとして個人的に好き。

まあ、推しだからっていう贔屓目は勿論ありますよ?でも、気を衒わず王道を貫く良さがハッキリと感じられるのが本当に良いというか。ビックリするくらい逃げないのがカッコいいというか。ただそのなかで「Swing Town」のラストで「ちょっと恥ずかしさが出たのだろうか?」と感じる一節が入ると安心感が込み上げる不思議さ。ズルい逃げ方、というか。「あくまでアイドルですから、最後に “すべてフィクションです” と入れとかないとね!」という洒脱さを感じる。

その一方で、「メッセージ」ではビックリするくらい自分を曝け出したりする。コレは、参りました。

(ちなみに、バースデーイベントで聴いていたので、「うぉーここで聴けるんか!マジで!ありがとー!」ってなりました。オタクちょろい。)

そうそう「メッセージ」。新しいハロプロアンセムにならないかなぁって思うんですよ。なんか、上國料さんとか、歌ってくれそうじゃないですか。「ちぇる〜!歌っていい?」って言って。いや、勝手なイメージですけど。ハロプロの色んな人に歌ってもらいつつ、最終的に「でもチェルバージョンが一番だよね」って言われたい、いちファン。

 

からの12期での歌唱と「おとめ組」「さくら組」シャッフルは “企画” として勝っている感じ。このブロックの印象的だったのは過去の衣装だったこと。特に、12期パフォーマンスの青衣装でみる “12期の絆” というか、あんまりひけらかさないからこそ感じれる、面白さ。あれが好きなんですよねぇ。

そしてラスト「Happy大作戦」。これも、人気投票で決まった楽曲ではあるのだけれど、野中さん本人も入れたかった楽曲でもあるので、違和感なく、むしろ “マニアック” な選曲が目立っていた中で、程良い良い締めの楽曲になっていたのではないかと思います。

 

そんな、ここまで1時間で15曲、みっちり歌の披露をしたあと、30分のアフタートーク。本人が言うところの “余韻” …なのだけれど、ここからのネタバラシが壮絶というか、「そこまで考えてたの⁉︎」の連続。いや、それ以前に、飯窪さんが出てきたのが、そもそもサプライズだったのですが。

そうそう、なんで飯窪さん呼ばれたんだろうって思ったときに、始めは「佐藤さんの卒業関係からかな?」って思ったのですが、どちらかと言うと、「テレビ寄りの演出だからなのでは?」と思ったり。

この “テレビ寄りの演出” を意図的に出来る周到さが “ザ・野中美希” って感じ。そこに思い至る、というか、そこを含めて思いつくアイデアの総量がそもそも違う感じがするんですよ。そして、そのアイデアの一つ一つに、理由が紐付けられているのがまあ、凄い。なんか、いくらでも裏話が出てきそうなんですよね…。

そんな『SONGS FOR YOU』。実は、初めての『ソロフェス』時から、ひいてはその前からやりたかったことの一つだったのではないかと思うのです。夢の一つ、というのかな。というのもコロナ明けの頃、佐藤さんが「自分以上にモーニング娘。のことを考えている人がいる」みたいな発言をしていたことをふと思い出したのです。そもそも、「モーニング娘。をプロデュースしてみたい」って言っていたのは佐藤さんの印象が強かったからこそ、コロナ禍を通して、他の人の意見を聞いて、「私では無理かも。」と一瞬でも思ったのが衝撃だったのです。ただ、そのことを話していたのが、誰かまでかはこの時点ではわからなかったのも事実。

そのあと、一回目の『ソロフェス』が終わったときにラジオで野中さんが裏話の一つとして、「候補の三曲を提出した際、『Be Alive』をピアノの弾き語り、かつ英語詩にアレンジしてやるっていう案を出していて、それが通れば完全に優勝を狙いに行っていた」という話が確かあったんです。(実際のところは「愛して 愛して あと一分」が選ばれていて、“応援してくださるファンのためにパフォーマンスした” とのこと。)正直、1回目でコレをやっていたら優勝していたとは思うのですが、実際のところ、もうこの時点で、番組プロデュースという企画を使って モーニング娘。のプロデュースをするっていう構想があったのではないかと思うのです。

無論、あくまで推測。

でも、なんとなく繋がりそうなんですよね、この二つ。

そして、今回の「赤いイヤホン」のパフォーマンスは確実に仕留めに行っていたと思うんです。なんなら、『SONGS FOR YOU』の公開リハくらいのつもりでやってたんじゃないかと思うくらいに。

 

そしてそれは、「モーニング娘。である今だからこそ出来ること」のための努力だと思うのです。

別に、モーニング娘。だから○○が出来ないなんてこと、特に野中さんは考えてないと思うんです。まあ、恋愛とか結婚とかはまた性質は違うけど、「アイドルだから」「モーニング娘。だから」「忙しいから」…だから大学に行けない、留学できない、作詞作曲出来ない…その他もろもろの “できない” ことを考えてないと思うんです。

反対に、「今じゃないと出来ないこと」に重きを置いてる。で、そういうフェーズに入ってきたのかなぁって言う。

それは、モーニング娘。の産みの親である、つんく♂さんへの挑戦になってる気がするんです。そして、それが面白い。というか、野中美希さんを応援することの面白さってここなんですよ。

12期って、結構複雑な期だと思うんです。つんく♂さんも選考に関わっているけど、加入してからは接点が余りないという意味で。おそらくですけど、つんく♂さんの頭の中には、こういう形で一人ひとりプロデュースしたいってのがあったと思うんです。それこそ、9、10、11期までみたいに。ただ、それは実現しなかった。(とはいえ、牧野さん羽賀さんは研修生時代に関わりがない訳ではないので、ゼロではないのだけれど。)

そういう、微妙な “ねじれ” があるなかで、「もしかすると産みの親に挑戦するかもしれないプロデューサー気質のメンバーが現れる」というのは、物語として個人的に熱いんです。

ただ、野中さんの良いところはコレを表に出さないこと。じんわりじんわりと、徐々に徐々に広げていく。

 

ま、憶測ですけど。

 

ただ、これが自身の卒業までにどこまで出来るのかってのが一番の見どころ。もしかすると、この作品限定かもしれないし、オリジナルアルバムに自作曲が収録されるところまで行くかもしれないし、もっと行くとメンバー全員で歌うことになってシングルとして切られるかもしれないし、もっともっと行くとコンサートの曲順や演出も自身の色を出して、全てのプロデュースに関われるかもしれない。

これがどこまで行けるのか、そして超えられるのかが見どころ。

この作品は、その端緒になるかもしれないし、ならないかもしれない。ただ一つ言えるのは、ファンの人はこの作品を楽しんだし、メンバーも支持したということ。

 

まだまだ可能性しかないちぇるを楽しみながら、この勢いや才能を持ってどこまで行けるのか、非常に楽しみな作品。

そんななか個人的に欲を言えば、完パケ状態での野中さんのオーディオコメンタリーが有ればより最高だなってことかな。特に、カメラワークの拘りについて語られていたけど、それがどこなのか、結構気になってる。